フユウ
高校の頃、こんなくだらない世界は誰かが燃やして灰にしてしまえば良いなんて事を考えていたが、まだ誰も灰にしようとしていないところをみるとそんな事を考えていたのは自分だけであったのかなあなんて事を考えてみたりもする。まだ生ぬるい午後。
御歳27歳。高校は只なんとなく出て見たものの、やりたい事なんぞなく、まあしゃあねえ大学にでも行くかと一浪して入った大学も結局二留。就職活動も面倒くさいんでしてはいなかったが、一応ある程度は名の通った大学であるからして、ダイレクトメールなるものがうざいほど届く。めんどくせえここでいいやと適当に選んで言った会社で面接もなしに採用。どうやら応募は俺だけだったらしい小さな会社。会社にて何か自分は脱却できるのではないかと思案を繰り返しているも、結局のところ只同じ凡庸なる出来事の繰り返し。詰まらぬと感じ3ヶ月で気に食わない課長のづらをはたき落とし、辞表を提出。職はなくとも腹は減る。仕方ないなとバイトをはじめて見るがどいつもこいつもつまらぬやつばかりで、結局のところバイトも長続きはせぬ。誰か俺のごとき天才はおらんものかと思案する、まだ生ぬるい午後。
小学校の頃作文コンクールで優勝したのを思い出し、そうだ小説家に相成ろうと思い筆をとるも、よくよく考えたら高校以降国語の成績だけは悪く、だけということはない、国語の成績もほかの教科のそれに並んで悪く、そんな俺が文を書こうとしたって面白いワードなど浮かんでくるわけもなくそういや最後に活字だらけの本を読んだのはいつの事だったかなど考えているだけで今日の日も暮れる。結局原稿用紙には一文字も文字はなく、今日の日も暮れる。生ぬるい午後が、今日も終わる。
一応は、両親が富豪と呼ばれる人種であったと言う事もあり、腹は減ってもそれを補うくらいの金はある。とはいえ、これからのち俺が後何年か生きる事を考えるとやはり何かをしないとなア、嫁さんの一人でもほしいなあとゴロゴロゴロころがる日々。そうして今日の日も暮れる。星がまたたき、近所の公園から太鼓の音が聞こえる。うるさいと思いつつも文句を言ったところでやむとも思えないし別に困りはしないのだが、近隣の住民から村八分にされてしまう事もありえるなと思いせめてもの対抗にと、子供たちには聞かせてはなるまいビデオテープを大音量で流す事にする。テレビの中では、裸の少女が浣腸をされてひいひい脱糞をしている。
太鼓の音もやみ、どうも俺の家の周りから子供の声も消えて久しいと思って時計を見るともう次の日。いつのまにやら俺は脱糞少女のビデオをかけながら眠ってしまったらしい。夢の中身はなんだったかは忘れたがそんなビデオを聞きながら眠っていたのでなにやらそういた夢であったような気がする。テレビをビデオモードから普通のモードに変え、さて今日は何のような事があったのかと思い、ニュースを見ると、どこかで見たような顔。懐かしい、高校時代の友人でやがる。やっと逮捕されやがったかあの馬鹿。二人で自分たちの異常な性癖について語り合っていたことを思い出す。やっぱり逮捕されやがったか。
幼稚園の頃、この世の中の人間の内、ほとんどの人間は幸せになれないと言う事に気づいた。
そして、自分もその一人だと。
高校時代の友人に、異質なやつがいた。ジャックと俺はそいつの事を呼んでいた。ジャックは変態だった。正真正銘。俺と同じほどの変態だった。その、ジャックが逮捕されたと言うニュースが流れている。そりゃあ、変態だもの逮捕されて当然だ。逮捕までこぎつけたと言うのはある意味幸せなのかもしれない。自分は逮捕されるような事は望んでいるが、決して人には明かせずにいる。ジャック以外の人間には。
白いベッド、上には少女。ジャックは、メスを握り、少女の腹をさくさくと切り裂いた。中にはたくさんの臓物が詰まっている。ピンク色でそれは時々ぴくぴくと蠢く。どんなにかわいい、どんなにきれいな女性のおなかにもそれは詰まっている。その中には、消化されていく物や消化されきった、つまりは俺が望んでいる物なんかも詰まっていて。なめたいとか、そこに精液をぶちまけたいと言う感覚もある。いっそ、性器を。いや、自分自身をそこに詰め込んで誰かに縫ってもらいたいんだよ。ちくちくとそれが自分に当たってそれはきっとすばらしい。人はなぜあの中に詰まっているというのに、せっかく詰まっているというのに、そこからもぞもぞとはいだして来てしまうんだ。俺はあの中でもぞもぞもぞもぞもぞ・・。永遠にそう繰り返していたかった。永遠に。でも、やっぱりあの女・おふくろの中はちょっといやかな。なんて事を、先月話したばかりであった。
ジャックの容疑は、健康な少女の体を切り刻んだというものだった。看護婦の証言で発覚したものらしい。コメンテーターは金がほしかったのだなどと言う見当違いの事を申し立てていたが、それは違う。あいつは心底その少女にほれていただけなのだ。あいつは、少女の臓物を見る事によってのみ性欲を感じる事が出来るのだ。正常なものにはわからぬやも知れぬが俺にはわかるのだ。俺には。
はたと気づくと俺は駅のホームに立っていた。電車はあと5時間は来ない模様。ホームには青い色のベンチがひとつ。5時間も待つのはつらいのでここはひとつ座って待つかな。晴れているというのにかさをさした少女。美少女だと言うのはわかるのだが、逆光になって顔は見えない。「あいしてる。」少女は俺にそうつぶやいた。「あいしてる。」
「殴ってもいいかな?」「いいよ。」拳を構える。「だめだ。やっぱり殴れない。」
数日後、ジャックは、獄中で自殺をした。最期に、「この世界において、俺の望むものは何も手に入れる事が出来ない。」と、自らの血で壁に書いて、死んで行ったらしい。「この世界において、俺の望むものは何も手に入れる事が出来ない。」
メンソールのタバコを吸わない友人は、これが、スースーするのが気持ち良いんだと言ったら、「じゃあ、ハッカ飴をなめれば?そのほうが経済的だよ。」と抜かしやがったが、タバコを吸わないやつにはこの感覚はわかんないだろうなと思う。とりあえず、小銭をかき集め、旅行にでも出ようかなと思い、この町を出た。
見た事ある駅にたどり着き、青いベンチに座る。晴れていると言うのにかさをさした少女。「殴ってもいいかな?」と拳を構えると、異質な物を見るようにして、早足で逃げて行った。俺もやっぱりジャックとおんなじだ。この世界において、俺の望むものは何も手に入れる事が出来ない。のだ。でもジャック、俺は生きるよ。まだ、生き続けるよ。もしかしたら、いや。でも、と思いながら生きつづけるよ。死ぬのはまだ俺には恐怖なんだ。さよなら、ジャック。
駅のホームでたたずむ俺、生暖かい空気が俺を取り囲む午後。頭の上にはいつ落ちるとも知れない浮遊する球体が存在している。そんな気がした。
フユウ