ハルカ
ちきちきちきちきちきちきちきち・・・
あヽ。・・五月蝿い。何で御前らの存在はそんなに五月蝿いのだ。これじゃあ、私は。
投げ捨てたカッターが床に刺さっている。
かち・・かち・・かち・・かち・・かち・・かち・・かち・・かち・・
眼球の横にある時計の音が五月蝿い。緑色の光沢がやけに美しく其の中を繰る繰るとひた走る赤い針は。
私は、時計をつかむと、地面にたたきつけた。りんと、きっとベルが破損するときに最後の悲鳴を上げたのだろう、音がした。それすら、五月蝿く感じる。音、音音。音。床に刺さったカッターを取り出すと、耳に突き刺した。まだだ。まだだ。まだだ。さきほど、刃を伸ばす音が五月蝿く途中で伸ばすのをやめたため、鼓膜に刃が達せず、未だ。音がする。
どくどくと流れる血の生暖かさを感じ、後悔した。
そうだ、それが、まちがっていたのだ。
此の世に生まれてきたことが。
「君がう生まれてきたことはま間違っていたのだ。」
「顔の無い」男、は、そう「言った」。
いや、言ったという表現はおかしい。顔が無いのだから。そういう音を発した。のだ。
其の男は恐らくアクリルでできているらしかった。「僕はあアクリルでできている」そういう音を発していたからだ。
頭だけつるんとしていて、下半身は男性器をむき出しにしていた。だから男だとわかったのだ。
「正常はい異常のは狭間で」
繰り返し同じ音を発し続けている。全くいやに成る。こんな妄想を見るようになってしまったか。
男は僕の首を絞めようとしたから僕は其の男性器をこすってあげた。こするとそれはだんだん硬く大きくなっていったので此れはもしかすると射精をするかもしれない。他人の射精を見るのは初めてだ。是非見てやろうと思いこすり続けた。こすってもこすっても何もでないでどんどん硬く大きくなっていくので僕はもういやになり、口でしゃぶることにした。別に僕はホモじゃあないし、そんなものをしゃぶりたいななんて思ったことは無いのだが、そのときは何故かしゃぶってしまった。イワユル、フェラチオと言うやつである。
口の中でそれは矢張りアクリルだった。つるつるとしていて、無味だった。舌の上でころころ転がすと、なんだか妙な気分になった。気持ち良いのだ。ああ、女の人たちはこんなにすばらしいものを隠していたのだな。そう思いなめ続けていると、だんだん気持ちが良くなって、気付くと僕が射精をしていた。
顔の無い男はにやりと笑い、くくくと、首を絞める手を緩めたので、僕は気持ちが良いけど別にしゃぶりたいものではないなと思い、口を離した。
ふと目をあげると顔の無い男は、いつの間にか首から上が無い男になっていた。
顔はどうしたのと言っても何の音もはっしはしない。ただ、あさっての方向を指差すのみだった。
だから、僕はあさってに行くことにした。
耳しかない部屋だった。僕も耳だった。でも鼻はひとつだけあった。匂いを嗅ぐためだ。
耳は音を聞くためにある。
鼻は僕に話しかけてきた。
僕はもう何も聞きたくなかったのでトイレに逃げ込んだ。
トイレで僕は全裸だった。特にしたいとも思わないけど、仕方ない、ああ、座るかと思い便座に座った。
便器は洋式で、白く、つややかに光っていた。
トイレの窓の外から音がした。
きゃあ。と言う悲鳴。
バイクのエンジン音。
がりがりと、何かをつぶすような音。
遠ざかるバイク音。
無音。
じゃあ、とトイレの水を流し、眠ることにした。
眠れなかった。五月蝿くて眠れやあしないと思った。
机からカッターを取り出し、そして、死んだ。
ハルカ遠くでパトカーの音が、鳴っていた。
ハルカ