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2003
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/26
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・無意
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会話である。
A:今、其処で箱を拾った。 B:箱。どんな箱だい。 A:不思議な匂いのする箱さ。 B:然し、一体何だって箱なんかを拾ったのだ。 A:不思議な匂いがするから拾ったのだ。 B:一寸待ちたまえ。其れはおかしい。 A:一体何がおかしいというのだ。おかしいなら笑えばよい。 B:否、僕が言っているのは奇妙だ。という意味のおかしいだ。 A:うん、確かに不思議な匂いの箱を拾うなんておかしいかもしれない。 B:そうではないよ。僕が言っているのはそういうことではない。 A:では、何だ。 B:君はこういった。「不思議な匂いがしたからその箱を拾ったのだ」と。 A:うん。厳密には「不思議な匂いがするから拾ったのだ。」と言ったのだ。 B:そんな微細な差異はいいよ。どうだって。 A:そんなことはないだろう。どんな微妙な差異だってどうだっていいということは無い。 B:どうだっていいだろう。 A:どうだっていいって事はあるか。久麗王葩都羅の鼻は3糎低かったら歴史が違っていたという。 B:其れは、俗説だろう。それに、今回は歴史に関わるような大事じゃあない。 A:では何だ。 B:何故、拾う前に不思議な匂いがするとわかったのだ。 A:其れは、匂いをかいだからだろう。 B:どうやって匂いをかいだのだ。 A:そりゃあ、こうやって箱を鼻先に。…嗚呼。 B:解ったかい。箱を拾わなければ匂いは嗅げないんだよ。 A:其れは困った。然し、僕は箱を拾う前からその箱が不思議な匂いがすると思っていたはずなんだよ。 B:其れは思い込みだよ。おそらくね。 A:否、其れじゃあ僕は納得がいかない。解せないんだよ。 B:君が納得以降がいくまいが、其れは事実なんだよ。 A:一寸待て。何かこう、釈然としないんだ。欠けた硝子細工の破片が何か足りないような気がする。 B:其れも、思い込みだ。 A:そうだ。思い出した。僕はやはり箱を嗅ぐ前に不思議な匂いを感じたんだ。だから、箱の匂いを嗅いだ。 B:強情なやつだなあ。じゃあ、何か。君は、落ちていた箱から匂いを感じたとこういうわけだな。 A:そう、落ちていた箱から匂いを感じ取ったのだ。 B:然し、其れにしてはいま、僕は不思議な匂いを感じない。 A:当然だ。今、此処に其の箱は無い。 B:でも君は、今、其処で箱を拾ったといたじゃあないか。 A:今、といったかもしれない。まあ、其れは慣用句的な表現で一寸前という意味だ。 B:其れぐらい僕にだってわかる。問題は其処じゃあない。そんなにきつい匂いのするものを拾ったら匂いが染み付くだろうといっているのだ。 A:染み付くかなあ。 B:染み付くだろうさ。僕が昔研究していたときにはよく薬品の匂いが染み付いたものさ。 A:僕の拾った箱は薬品ではないよ。 B:そんな事は問題じゃあない。鼻先から遠いところにあるのに匂いを嗅げるような代物は強烈な匂いを放っている。 A:一寸待て。 B:何だ。 A:別に鼻先から遠いところにあったわけではない。 B:何だって。 A:こう、ここら辺。そう、肩のあたりに落ちていた。垣根の上に。通り過ぎようとしたときに「ふ」と匂いを感じたんだ。 B:其れは置いてあったんじゃあないのか。 A:違うだろうね。 B:何故解る。 A:そぐわなかった。あれは、余りにあの風景にそぐわなかったからさ。 B:そぐう、そぐわないは其の家主の勝手だろう。 A:否、それでもあの箱は落ちていたのだよ。 B:其れは、どういうことだい。 A:「ご自由にお持ちください」と書かれていたのだよ。 B:何のために。 A:そんな事は知らないよ。僕は別に森羅万象に明るいわけではないからね。
意味は無い。勿論、虚構で在る。
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